このページでは、ワン・パブリッシングの事業活動を支えるステークホルダーやパートナー企業様のSDGsへの取り組みを取材し、ご紹介していきます。第2回は、ワン・パブリッシングの株主である学研プラスの親会社学研ホールディングスです。コーポレートコミュニケーション室の鈴木 映さんと岸野 優子さんにお話を伺います。
1946年に創業された学習研究社を母体とする学研ホールディングスは、教育や出版事業だけでなく医療福祉事業にも力を入れています。「すべての人が心ゆたかに生きる社会」を企業理念に掲げる同社に、SDGsに関する取り組み、2030年に向けた展望などお話しいただきます。
<プロフィール>
株式会社学研ホールディングス コーポレートコミュニケーション室 鈴木 映
学習研究社(現学研ホールディングス)入社後、週刊パーゴルフ編集部に配属。世界4大大会を始め、国内外のゴルフトーナメントなどを取材。T.Tennis編集長、週刊パーゴルフ編集長、記事審査室長、出版総務部長、CSR推進室長などを経て現職。SDGsの導入・啓発、サステナビリティの推進を行っている。
株式会社学研ホールディングス コーポレートコミュニケーション室 岸野 優子
アイ・シー・ネット入社後、ODA専門家としてタイの国立大学拡充プロジェクトに従事。帰国後、プロジェクトマネジメントや組織強化の研修事業を経て、ODA評価を中心にコンサルティング業務を実施。若手評価人材育成にも関わる。日本評価学会認定評価士。2021年に学研ホールディングス出向して現職。ISO14001、気候変動対策、SDGs推進、CSR業務を担当。
「学研といえば教育」をグローバルに展開
__学研は、1946年に教育出版社として創業されています。長い歴史を持つ企業ですが、現在の学研グループの取り組みについて教えてください。
鈴木「学研グループは、『戦後の復興は、教育をおいてほかない』という創業者・古岡 秀人の強い信念から誕生し、2022年で77期を迎えました。現在は、大きくわけて2つの事業を軸にしています。ひとつが教室・塾、出版を中心とした教育分野、もうひとつがサービス付き高齢者向け住宅に代表される医療福祉分野です。また変化の激しい時代でも持続的な企業価値向上を目指し、この2つの分野に対してグローバル展開とDX推進を加速させていくべく取り組んでいます」
__2030年までにデジタル領域がグループ収益の40%超、グローバル展開による事業で30%超を目指しているんですよね。
岸野「2019年にグループインしたアイ・シー・ネットは、ODA(政府開発援助)の社会開発を中心としたソフト分野のコンサルティング会社で、世界中にネットワークがあります。そのネットワークと教育分野での知見を活かし、学研の教材を用いたサービスを海外で展開しています。実際にサービスを提供している国の学校関係者からは高い評価を得ており、学研の教材をうまく活用することで世界の子どもたちにもクオリティの高い教育を提供できると感じています」
__アイ・シー・ネットは当社とも関わりが深く、オウンドメディア『NEXT BUSINESS INSIGHT』の運営をサポートさせていただいています。これは当社が学研プラスと日本創発グループとの共同出資会社だったのがきっかけです。教育分野においては、ほかにも図鑑チームが手掛けるアプリ事業のプロモーション支援、学研教室と学研キッズネットとのコラボ教室の開催など、さまざまなサポートをさせていただいています。
20年前にできたグループ理念とSDGsのつながり
__今回の連載では、当社と関わりのある様々な企業様の「SDGs」の取り組みについてお伺いしています。学研ホールディングスさんを取材するにあたって資料を拝見させていただいたのですが、とても丁寧に理念やSDGsへの取り組みが記されていますね。グループの理念はいつからできたものなのでしょうか?
岸野「当グループでは、2002年から『すべての人が心ゆたかに生きることを願い 今日の感動・満足・安心と明日への夢・希望を提供します』というグループ理念を掲げています。この理念を作ったときは、売上も下り坂で、次のビジネスモデルを考えていかなければいけない時期でした。今では、会社のミッション・バリュー・ビジョンがあって当たり前という会社が多いですが、そのときの社長が『このままではいけない』と学研の理念を掲げました。従業員の心をひとつにするために、学研の存在意義を問いなおし、新しい学研を創っていこうとしたのです」
__20年近く企業理念が変わっていないって素敵なことですね。
岸野「何のために学研は存在しているのか、人々は何を求めているのか? 新たな学研を創っていくなかで、人々が求めているのは “心ゆたかに生きること” であり、そのためには “感動・満足・安心、そして夢と希望だ” とたどり着いたわけです。今回は、SDGsでのお話ですがこの17つの目標を当グループのミッションと見比べてみると、当グループは全ての課題と関わりがあるんですよね。自然と意識してきたことが、SDGsでもつながっていると実感しています」
__2002年に作られた企業理念が、2030年の世界的な目標とつながってくると思うとすごく先進的だと感じてしまいます!
鈴木「もちろんその当時からSDGsを意識したわけではありません。企業のDNAとでも言いますか、2002年に作られた企業理念もある日突然、ポン! と浮かんだものではなく、創業から脈々と受け継がれてきた信念を言葉にし、グループ内で再認識したものと言えます。結果的に、SDGsが目指しているものとリンクした……っていうのがいいかもしれませんね」
__創業から変わらないDNAが受け継がれているわけですね。SDGsの取り組みに際して、新たに作られた指標などはあるのでしょうか?
鈴木「マテリアリティ(※)でいうと、自分たちの視点だけでいいのか? ということの重要性を感じていました。学研が社会の中でどんな影響を与え、ステークホルダーは私たちに何を期待しているのか? それを理解するための価値創造モデルが以下の図です。これを見ていただくと、学研グループが事業の中で生み出している社会的価値は、経済的価値より先に出ているんですよね。社会が学研に対して必要だと思っていただいていることを続けていくと、結果的に経済的な価値を生み出している、そんなスタイルだといえます」
- マテリアリティ(materiality)とは、組織にとっての「重要課題」を意味する言葉
__社会的な価値が、企業価値を生み出していくCSV(Creating Shared Value)の考え方と似ていますね。
鈴木「そうですね。これはグループの会社で働いている人なら共感できると思うのですが、例えば塾の先生なら『今月は儲かったぞ〜♪』と利益を重視するよりも先に、生徒たちの問題が解けたときの笑顔や成績が上がって結果がでたことに、やりがいや価値を見出しているのではないでしょうか。私は雑誌の編集出身ですが、何部売れるかは大事ですけれど、それより先に読者一人ひとりがどう反応して変化してくれたのかの方が気になっちゃいますからね。そういう社会的価値をちゃんと考えて仕事をしないと、学研は売上も利益も出てこない企業グループなんだということですね」
__先ほど、企業のDNAというお話もありましたが、グループ全体で同じ志を持つために何か意識されていることなどはあるのでしょうか?
岸野「当グループはビジョンに『想像の先を、創造する』を掲げているのですが、利益よりも人に寄り添うことを大事にしようという文化が、意識しなくてもひとりひとりの心の中にあると感じます。あまり、こうしなさいとトップダウンで指示されてから動くような働き方をしていないのが伝統としてあるのかもしれません」
SDGsはどれかひとつやろうでは、解決できない
__学研グループでは、SDGsの重点目標として「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「住み続けられるまちづくりを」の3つ掲げていますが、詳しく教えていただけますか?
鈴木「この3つの重点目標はきっかけです。これらは当社グループの強みでもあるので、この3つをきっかけとして17のゴールを解決しようと考えています」
__3つだけをやるのではなく、強みである3つをしっかり取り組んでいくことで17つの目標にもアプローチしようということですね。
鈴木「はい。どれかが良くなるとどこかが悪くなってしまう……例えばですが、産業が発展して貧困が解決しても環境が悪化してしまっては意味がありません。トレードオフが必ず出てしまうので、17の目標を同時に解決することが求められているんですよね」
__確かに。「17の中からどれかやろう」ではなく、全部がつながっている課題だと意識することが大切ですよね。
岸野「とくに教育をリードしてきた学研としては、『質の高い教育をみんなに』は意識している部分です。人をつくることで、人を通じて問題解決することができますから。持続可能な社会の作り手を育成していくことを『ソーシャルアクションマネジメントツリー』にも掲げています。このツリーは、グループ各社が目標に対して、強みを活かしながら、どうやってアプローチできるか考えていったものです」
鈴木「医療福祉分野では、社会保障費の削減をKPIに掲げている会社もあります。社会保障費の増大は、日本全体の課題です。当社が関わる部分で言えば、要介護度が低く自立した高齢者がイキイキと暮らせる世の中を作っていくことで、国の社会保険、介護保険の持続可能性を高められると考えています。例えばですが、当社グループのサービス付き高齢者向け住宅では、介護のステージに合わせた必要なサービスを提供することにより、特別養護老人ホームなどに比べて社会保障費を抑えられる仕組みがあります。各種のプログラムにより入居者様の元気な生活を支え、医療依存度を抑えながら長く住んでいただくことは、社会的価値を生み出すと同時に事業を持続可能にする経済的価値を生み出します」
「すべての人」が心ゆたかに生きるために
__SDGsでは『誰一人取り残さない』もうたわれていますが、学研グループの企業理念とも繋がりも感じられますよね。
岸野「当社グループは、赤ちゃんから幼児、小中高大生、社会人、子育て家庭から高齢者と、年齢属性の意味では、すべての人にサービスを提供できている企業と言えます。SDGsが掲げる『誰一人取り残さない』は、社会的弱者にフォーカスされています。その意味では、年齢属性を網羅するだけでなく『誰一人取り残さない』の精神を十分に反映していく必要があると感じています。学研グループでは、障がい者雇用や発達支援教育の充実、関連する古岡奨学会や才能開発教育研究財団とともに、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。少しずつではありますが、今後も本当の意味ですべての人の心のゆたかさへ貢献していきたいと考えています」
鈴木「学研グループの場合、社会に対して心ゆたかに生きられる価値の提供を続けていくことで、結果的に利益を生み出す、経済的な価値にもつながっていると感じています。企業理念、価値創造モデルを今後も追い求めていきたいですね」
__学研グループの取り組みが人々をつなげ、これからも世の中をゆたかにしていきそうで楽しみです。
鈴木「お客さまはもちろんですが、従業員とその家族、取引先、株主・投資家、行政機関、地域社会などすべてのステークホルダーの期待に応え、サステナビリティ経営を実践していきます。学研グループ一丸となって、2030年の目標に向けて進んでいきたいです」
企業情報
1946年の創業以来、70年以上にわたり日本の教育を支え、現在は「教育」と「医療福祉」の2つの事業を中心に、激変する社会環境が求める様々な課題の解決に、新たな価値を創造しながら貢献している。