これまで、日本創発グループ、学研ホールディングスとワン・パブリッシングの事業活動を支える企業のSDGsへの取り組みを取材し、ご紹介してきました。第3回は、ワン・パブリッシングのビューティ&ヘルス系WEBメディア『FYTTE』と15年以上お付き合いがあるサラヤ株式会社。広報宣伝統括部 統括部長の廣岡竜也さんにお話を伺います。
サラヤ株式会社は、世界の「衛生・環境・健康」の向上に貢献することを理念に掲げ、国内外の医療・福祉分野や食品衛生、公衆衛生、そして一般家庭まで幅広い分野の感染対策をサポートしています。コロナ禍で私たちの生活により身近になった企業ではないでしょうか。さらに、SDGsのリーディングカンパニーとしても各方面から注目を集めている企業です。今回はそんなサラヤの歴史とSDGsの取り組み、2030年に向けた想いまで幅広く伺いました。
<プロフィール>
サラヤ株式会社 コミュニケーション本部 広報宣伝統括部 統括部長 廣岡竜也
大学卒業後、広告代理店を経てサラヤ株式会社へ入社。広報宣伝部にて「ヤシノミ洗剤」「アラウ」「ラカント」など一般小売用商品のブランディングをはじめ、広告ディレクション、コピーライティングなどを手掛けるかたわら環境保全活動にも携わり、CSR活動の企画、広報活動も担当。個人としても数多くの広告賞を受賞している。
戦後日本の「手洗い」から始まったサラヤの歴史
__サラヤさんは、今年創業70周年を迎えられました。まず、その歴史から教えてください。
「サラヤは戦後の日本で赤痢という伝染病が流行する中、感染対策の基本でもある手洗いで人々を守りたいという想いから創業されました。近年、新型コロナウイルスの影響でますます手洗いが見直されています。そのなかで手を洗うと同時に殺菌・消毒ができる「薬用石けん液」を日本で初めて作ったのが当社なのです。その代表的商品が、学校や会社のトイレに設置されている緑色の石けん、というとわかりやすいかもしれません」
__日本で使ったことがない人はいないかもしれませんね。サラヤさんのホームページを拝見すると、さまざまな事業が展開されており、驚かされます。
「はい、当社は大きく分けて3つの事業部があります。公衆衛生や食品衛生を管理するサニテーション事業本部、病院や福祉施設を中心としたメディカル事業本部、そして『ヤシノミ洗剤』や『arau』といった洗剤商品や、自然派甘味料『ラカントS』を販売するコンシューマー事業本部です。他にも研究・開発や海外事業も展開しています。売上の割合では、メディカルとサニテーションがメインを占めている状況です」
__『ラカントS』は当社とも関わりが深く、雑誌時代のFYTTEから15年近くお付き合いいただいていますよね。FYTTE読者からも好評です!
「ありがとうございます。『ラカントS』は1995年の発売以降、テレビCMなど大規模な広告を打ち出していないのですが、ファンの方に長く親しまれている商品です。素材へのこだわりなど、説明型の商品のためなかなか認知されるのが難しいのですが、FYTTEさんには雑誌やウェブを通じて丁寧にご紹介いただけています。おかげさまで、『ラカントS』の使い方やレシピなど読者さんを通じて幅広い世代の方に知ってもらうことができました。また、2022年のFYTTE ダイエット&ヘルス大賞ヘルシー甘味料部門の『使ってよかった編』でも第1位をいただいています」
売上の1%でマレーシア・ボルネオ島の環境を保全
__今回の連載では、当社と関わりのある様々な企業の「SDGs」の取り組みについてお伺いしています。サラヤさんは、SDGsという考え方が広まる以前から地球環境への配慮など環境保全活動が行われています。スタートするきっかけはあったのでしょうか?
「きっかけでいうと2004年に放送されたテレビ番組の反響が大きかったかもしれません。私たちの製品原料のひとつであるアブラヤシ(パーム油)の栽培が、ボルネオの自然を破壊し、そこに暮らす野生動物たちが行き場を失っているという内容でした。私たちは、原料も自然由来で安心した商品を提供できていると思っていましたし、商社から購入していた原料が環境問題につながっているとは、考えたこともありませんでした。今となっては、チョコレートやコーヒーでもフェアトレード(※1)が認知されていますが、当時はその認識もほとんどない時代です。この事実を知った以上は、現状を無視してそのまま事業活動を継続することはできない。そう考え、環境配慮の原料調達とボルネオの環境保全活動が始まりました」
※1 フェアトレード:途上国で作られる生産物を適正な価格で購入する「公平・公正な貿易」のこと。チョコレートの原料となるカカオやコーヒー豆、大豆やコットン製品など生産物のジャンルはさまざまある。
__直接サラヤさんが環境破壊していたわけではないですよね? パーム油の多くは食用なので、製品となるのはきっとほんの一部だったと記憶しています。
「はい、世界で利用されているパーム油の約85%が食用で、石けん・洗剤の原料となるのは残りの15%のうち、数%だけ。その中でも、大きな企業ではないサラヤが使用するのはごくわずかでした。しかし実際に現地を訪れてみると、日本人が知らないだけで世界中では問題視されている課題がたくさんあると知りました。そこで、アブラヤシ農園によって失われた土地を買い戻し、生息域を奪われた象などの野生生物が行き来できる『緑の回廊計画』を立ち上げたのです」
__すごい……! 正直、いち日本企業がここまでやるのか!? と驚いてしまいました。
「ちなみに2007年からは、対象商品の売上の1%をボルネオ保全トラスト(現地の環境保全団体)を通じて現地の環境保全に使っています」
__とても勇気ある決断だと思います。当時の社員のみなさんからはすぐに賛同を得られたのでしょうか?
「正直、『象より会社や社員を助けたら?』という声もありました。その時、一番大事にしたのはインナーコミュニケーションです。幹部社員もボルネオへ渡り、実態を把握し『サラヤが取り組む意義』をひとりひとりに実感してもらったんです。また当社がこの活動をしていくことの意味、将来のビジョンも随時、発信していきました。すると、少しずつお取引先さんやお客様から『いい活動ですね』とお声がけいただけるようになり現在へとつながっています」
__今や、環境保全やSDGsのリーディングカンパニーですからね。
「ありがとうございます。でも振り返ってみると、近年までこうした活動がなかなか理解を得られない冬の時代だったんです。環境保全やエコ活動は儲からないのが当たり前ですし、そのうえ世の中の評価も低いものでした。しかし、ここ10年ほどでやっと社会の捉え方が変わってきたと感じています。変わったのは、我々ではなく社会。私たちは70年変わらず、衛生・環境・健康について取り組んできただけなんです」
SDGsはベストより、ベターを目指そう
__確かに、この10年で日本の価値観も大きく変わりましたよね。サラヤさんは、SDGsにある17の項目の中で「これを重視する」と決めているものはあるのでしょうか?
「SDGsの前身である、MDGs(※2)の頃から関わっているので、SDGsだからこれをしようという活動は特に行っていません。17ある目標の中から活動に当てはまるのは何番か?と考え、それぞれにできることを進めています。結果的に、ほとんどの目標に取り組んでいることになりますね」
※2 MDGs:Millennium Development Goalsの略で、2000年にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」を基にまとめられたもの。2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられていた。
__上記の図を拝見すると、すべてのターゲットと活動が合致していますよね。これだけ細かく設定されていると、社員教育も大変そうに感じるのですが……。
「新入社員へのレクチャーはありますが、もともとSDGsや環境保全に関心の高い社員が集まっている背景があるので、社員教育に苦労することほとんどありません。また社員だけがアクセスできるポータルサイトでは、社長自らが毎週情報を発信しています。売上から、最近の関心ごとまで、常に情報共有されているので、社長が考えていることや感じていることが把握できるんですよね。会社が向かうべき方向性がオープンなので社員も主体性を持って働けます。チャレンジにも前向きな社風で、社員同士の縦・横のつながりが深いのも特徴かもしれません」
__それは良いですね! ちなみに、日本企業の中でも地球環境と真摯に向き合ってきたサラヤさんから見て、今の日本のSDGs状況はどのように評価できますか?
「私個人で評価できるものではありませんが、強いて言えば日本はアジャスト能力が高い企業が多いので、ここ数年でSDGsへの関心が高まり、達成しようと動いているのではないでしょうか。決して何もやっていない状況ではないと思います。過去に企業担当者向けにSDGsについてお話しさせていただく機会もあったのですが、何から始めたら良いのか、どこまでやったらいいのかがわからないとご相談いただくこともありました。日本企業の場合、100%達成することを目指してしまうのですが、まずは取り組みをしてみる、できたところにフォーカスする、ベストよりベターを目指す方向性にシフトできると、日本のSDGsも良い方向へ進んでいくような気がします」
__やりながら、柔軟に対応していくことが大切なんですね。
「あとは発信することも大事ですね。当社も2011年から『環境レポート』『サステナビリティレポート』の公開をおこなっていますが、こんな活動していますという発信から新たなコミュニケーションが生まれることもあります。当社もまだまだ課題があるので、社内外への発信とコミュニケーションを強化していきながら、サラヤらしく取り組んでいきたいです」
陸と共に、海も守りたい。「サラヤらしい」取り組みとは?
__2030年に向けての展望や目標があれば教えてください。
「今日のお話の中ですと、ボルネオ島での活動を通じて、SDGsでいうところの『つくる責任 つかう責任』『陸の豊かさも守ろう』『パートナーシップで目標を達成しよう』の課題解決には、積極的に取り組んでいます。また2030年に向けては、陸だけでなく海の豊かさを守る取り組みにも力を入れていきたいと考えています」
__SDGsの目標の中にも『海の豊かさを守ろう』がありますね。
「排水については、自然由来の原料で海の環境を汚さない取り組みを実施してきました。また、プラスチックごみを減らすためにも、1982年から日本で初めての洗剤詰め替え商品を販売しています。しかし海洋プラスチックゴミは増加し続けています。自社商品の容器素材の改良などはもちろん、もっと問題を啓発していくために、自社だけでなく、外部の団体とも協力・連携しながら、サラヤらしく陸も海も守れる取り組みを強化していきたいです」
__今回お話を伺って、サラヤさんの活動は現場活動が重視されており、それが「サラヤらしさ」にもつながっていると感じました。SDGsや環境問題を身近に感じるためにも、現場と現状を知るのは大切ですね。
「今は行けませんが、以前はお客様をボルネオにご招待するボルネオ調査隊ツアーも実施していたんですよ。SDGsも環境保全も、自分の目で見ないと実感できないことが多いです。実際に見て、感じてもらってこそ主体性を持って取り組めると思います。過去の取り組みについては、当社のホームページにもアップしていますので、ぜひご覧いただければうれしいです」
企業情報
世界の「衛生・環境・健康」の向上に貢献する企業として、病院や学校、企業の公衆衛生や感染対策サポート、自然由来の原料を使用した石けん・洗剤などを販売している。環境保全や途上国支援についても以前から取り組んでおり、SDGsのリーディングカンパニーとしても注目されている。
サラヤ株式会社のSDGsポリシー
- 人々の健康を守り、環境に配慮したものづくり
- 国内だけでなく、途上国も含めた世界の衛生に貢献する
- 陸の豊かさも、海の豊かさも守る