株式会社ワン・パブリッシング(以下、ワンパブ)は、さまざまな企業のSDGsに関する取り組みとその活動を、インタビューを通して紹介しています。13回目は、国内の大麦(精麦)シェアナンバーワンを占める株式会社はくばくです。
株式会社はくばくは、1941年に山梨県で創業されました。企業理念に「穀物の感動的価値を創造し、人々の健康と豊かな食生活を実現する」を掲げ、国内だけでなく海外でも人気商品の『もち麦』や雑穀ごはん、乾麺など様々な商品を展開。創業時から健康な食文化を提供し続けており、SDGsの3つめ「すべての人に健康と福祉を」とも深く関係しています。次の世代にも健康で安心・安全な食事を届けるために日頃からどんな取り組みをされているのでしょうか? 海外事業室の中野眞吾さんとPRを担当する手塚俊彦さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
株式会社はくばく 市場戦略本部 海外事業室 課長 中野 眞吾
2014年に入社。山梨本社で総務人事部を経験後、東京本社に異動しメイン商材である大麦・雑穀のマーケティング業務に従事。2020年より海外事業室に配属となり、主に本社のある山梨県で製造した自社商品の輸出業務を行っている。
株式会社はくばく 市場戦略本部 市場戦略部 PR課 手塚 俊彦
2016年に入社。山梨本社で開発部製品開発課に配属、大麦や乾麺の商品開発に従事。2020年よりPR課に配属となり、広報担当としてプレスリリースの作成、メディアへの提案・取材対応を行っている。
山梨県北杜市は市民の41%が高齢者
__はくばくさんの事業内容について教えてください。
中野「弊社は、 穀物を中心とした商品を取り扱う食品メーカーです。ご飯と一緒に炊いていただく『もち麦』、学校給食で昔から食べられている麦ご飯の『押麦』、雑穀米や乾麺、お好み焼き粉のような家庭用粉さらにはレトルト食品まで穀物に関連する商品を数多く取り扱っています。最近では、学校給食に加えてコンビニのおにぎりにももち麦や雑穀が使われているなど、これまで以上に身近な存在になって参りました。またこうしたメインの事業活動のほかに、食育の啓蒙活動やレシピなどを掲載した『おいしい大麦研究所』や『麦ラボ』といったウェブコンテンツ、研究開発も積極的に行っています」
__家庭用の商品だけでなく、学校給食やコンビニでもはくばくさんの商品が使われているんですね。
手塚「ここ数年でみなさんの健康意識が高まっているのを感じています。シェアは家庭用商品のほうが高いですが、2016年頃から “健康米”需要が高まり、コロナ禍でさらにその勢いが加速しました。その結果、大手コンビニや飲食店、最近では冷凍食品などで雑穀や麦ごはんの導入が増えていますね」

__確かにこれまで以上に身近な食材になったと感じます。海外ではいかがでしょうか?
中野「海外ではオーストラリアに工場があり、そこで海外用の製品を製造しています。海外ではお米を食べる文化が日本ほど一般的ではないので、お米に混ぜて食べる雑穀商品よりも乾麺のような加工商品を中心に販売しています。海外展開は10年ほど前から進めて参りましたが、海外事業売上の約5割がアメリカでヨーロッパやベトナム、台湾など15カ国で当社の商品を展開しているところです」
__国内外に製品を展開されているはくばくさんですが、地域活動も大事にされていると伺いました。具体的にどんな活動を行われているのか教えてください。
手塚「本社が山梨県にあるのですが、2020年から山梨県北杜市と地域活性化に関する包括連携協定を締結し、食と健康を軸とした『おこめプラス・健康プロジェクト』を進めています」
__なぜ北杜市なのでしょうか?
手塚「県内有数の米所というのが理由のひとつですが、実はもうひとつ理由があります。それは、年々高齢化が進んでいる地域である、ということ。市民の41%が65歳以上。これだけ聞くと驚いてしまう方も多いのですが、2070年の日本の姿とも言われているんですよ。年齢が高まるにつれて生活習慣病をはじめとした健康課題も深刻化していくため、弊社の大麦や雑穀を活用いただきながら市民の方々の健康サポートを行っています」
『麦ごはんでスッキリ教室』でお子さんへの健康教育も
_未来を想像し、今できることを進めていくのは持続可能な社会を生きる上でも欠かせませんね。これまでどのような活動を行ってきたのでしょうか?

手塚「市民の方に向けた大麦勉強会、市内イベントでの試食体験、病院の栄養士さんとの勉強会や患者さんへのサンプリングなど、様々な活動を幅広く行ってきました。2021年には小学生を対象とした『麦ごはんでスッキリ教室』も開催しています。これは、食物繊維の役割を知っていただきながら、食事と排泄のつながり、『食べて出す』ことの大切さを伝えていく授業です」

__興味深いですね。
手塚「最近のお子さんたちは朝ごはんを食べなかったり、便秘の悩みを親に相談できなかったり、学校のトイレを恥ずかしくて我慢したり、さまざまな理由から便秘症になってしまう子が増えているんです。最新の情報だと4人にひとりが便秘とも……。この授業はこれまでに5回(オンライン開催も含む)、山梨県と大阪の小学校で授業を行いました。食物繊維や排泄の大切さを学んだ子どもたちからは、『家庭科の授業でもち麦を使おう』とか『学校の給食やおうちのご飯にもち麦を入れたい』という声があったとうれしい反響もいただいています」
__それはうれしい! 大人でも便秘に困っている方が多いですし、子どものうちから正しい知識を身につけることは大切ですね。SDGsの観点からみても健康はすべてのベースになると改めて実感しました。
手塚「そうですね。当社では、健康経営への取り組みも重視しており、従業員が毎日利用する社員食堂では、主食に麦ごはんと雑穀ごはんを提供しています。健康意識が高い社員も多いと思います」
中野「また社員へのSDGs教育もただ伝えるだけでなく、“自分事”に落とし込むことを意識しています。それぞれの部署でできることは何か? どんな視点が必要か? は、意識づけとして進めている部分です。例えば、子ども食堂に寄付する活動や一次産業への理解を深めるための田植え体験なども積極的に行っていますよ」
日本の健康文化を世界のスタンダードへ
__これからやっていきたいことを教えてください。

中野「日本の健康食を世界でも広げていきたいと考えています。日本食=健康なイメージはあるのですが、何をどう食べたらいいのかまだ伝えきれていない部分も多くあるのが現状です。日本食というパッケージにして提供していくのか? また現地食材や食べ方に合わせるのか? これらを考えながら進めていきたいですね」
__SDGsの視点からみても「健康」は大きなキーワード。日本食を世界に発信することが、持続可能な社会につながるかもしれませんね。
中野「ぜひつなげていきたいです。最近は有効性・機能性に関わる健康表示(ヘルスクレーム)が浸透し、国内外で健康的な食事を求める方が増えてきました。『もち麦』を例に挙げると、アメリカにて大麦のβ-グルカン(水溶性食物繊維)が冠状動脈心疾患のリスクを下げる働きがあると認められています。これまで『もち麦』の原料である大麦はほとんど飼料として使われていたため人間が食べるものとは考えられていませんでした。しかし日本の工場で丁寧に加工した『もち麦』をみて『きれいな加工に感動した』『おいしい』と口コミが広がり、白米に混ぜたり、スープに入れたり、サラダに混ぜたりと食べていただく機会が広がっています」
__おいしくて健康になれるなら、食べないともったいないですね!
中野「もち麦は健康効果も高く、ポテンシャルある食材だと感じています。日本食を世界に普及させていきながら、もち麦を広めていければうれしいです。国内でもまだまだ“意識の高い食材”と捉えられている部分もあるので、身近でおいしく健康につながる商品として発信も強化していきたいです」
手塚「少子高齢化、またそれに伴う生活習慣病の課題は、さらに深刻化すると考えています。日本国内そして世界の健康寿命をのばし、いつまでも元気で過ごせるそんな食生活を提供していきたいですね。そのためにも商品開発だけでなく、研究開発によるエビデンスづくりも大切だと考えています。みなさんが安心・安全においしい食事を楽しめるよう時代にあった商品を展開していきたいです」
企業情報
株式会社はくばく。1941年に山梨県で創業した食品製造企業。穀物を原料とした商品を提供しており、市販用・業務量含め穀物の加工品である7事業(精麦、雑穀、和麺、穀物茶、穀粉、精米、レトルト食品)を国内外に展開している。